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大阪地方裁判所堺支部 昭和41年(わ)152号 決定

被告人 R・Z(二三・六・二七生)

主文

本件を大阪家庭裁判所堺支部に移送する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和四一年五月○日午前二時過ぎ頃、Aほか一名と、大阪府貝塚市○○○○××××番地○○家旅館の「○の間」に投宿したが、廊下をへだてた向いの部屋「△の間」に○野○博、○留○代(一七歳)が同宿しているのを知るや、劣情を催し、右Aと、同女を姦淫しようと意思相通じ、同日午前二時半頃、Aにおいて、右○野○博を「○の間」に連れ出して看視し、その間被告人が同女に対し、「俺にもさせんと首をしめ殺すぞ」と脅迫し、逃げようとする同女の襟首を掴んで引き倒したり、突き倒する等の暴行を加えてその反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫し、続いてAも右「△の間」に到り、「やめてくれ」と懇請する同女を強いて姦淫したものである。(強姦刑法六〇条、一七七条前段に該当)

右事実は本件各証拠によって認めることができる。

(保護処分を相当とする理由)

右認定した罪となるべき事実は本件公訴事実と同一であるが大阪家庭裁判所堺支部がなした本件の検察官送致決定によると、その罪となるべき事実として司法警察員作成にかかる昭和四一年五月一三日付少年事件送致書記載の事実を引用しており、右記載によると、その要旨は「被告人は○野○博、Aと共謀の上、○留○代を強姦し、因って同女に対して加療五日間を要する処女膜裂傷を与えた」というにある。しかし被告人とAが○野○博とも共謀のうえ本件犯行を犯したものであると認めるに足る証拠はなく、また本件各証拠によっては○留○代の受けた処女膜裂傷が被告人およびAの姦淫行為によって生じたことの心証を得ることができない。従って被告人の処遇を定めるに当っては被告人の所為が強姦罪に該当するものであることを前提として決しなければならない。

右の如く被告人に対して強姦致傷罪としての責任を問うことができないにしても、その所為は極めて悪質、非人道的なものがありこれによって受けた被害者の精神的、肉体的苦痛や同女の将来に及ぼす影響および未だその慰藉について話し合いがついていないこと、更には共犯者Aとの刑の権衡(同人に対しては前科その他の点において被告人とはかなり異なった諸要素があったものの当裁判所において懲役二年六月に処し、右刑は確定している)等の諸点に加え、本件記録および鑑別結果によると、被告人は、中学校卒業後一応就職を続けてはいるものの、転職をくり返し、その間不良交友との結びつきが深まると共に家庭への親和性は失われてゆき、倫理観に著しく欠け、社会規範を無視するといった生活態度の崩れを示しておりその反社会性は大きく、予後の危険性は決して楽観を許さぬものがあること、またその家庭は、父親が肺結核で病床に伏し、母親は家業(養豚業)に追われ、家族間の疎通は失われていてその保護能力には全く期待できないこと等諸般の状況に鑑みると、被告人を保護観察付執行猶予とし、あるいは在宅保護処分に付することは相当でないところであり、むしろ実刑に科することが一応考えられないではない。現に鑑別結果も右の如き被告人の高度な反社会性(虞犯性)は被告人の幼少時からの家庭の貧困に加え、民族的な劣等感が強固に植えつけられて心的にも物質的にも絶えず飢餓感にさらされてきたことから形成されたものであることを指摘し、少年の生活観の大きな崩れ、根強い不適応(適応の放棄)、家庭の保護能力と意欲の欠如、本件非行の態様(但し右非行は強姦致傷罪を指しているものと解せられる)等を併せ考えて保護不適との判断を下している。

しかしながら被告人に対し少年院における矯正教育についてまで不適応であるかについては、なお熟慮を要するところである。被告人の高度の反社会性が、右の如き境遇によって形成されたのであれば、かかる不幸な境遇に生まれ、養育されざるを得なかった被告人の立場も充分斟酌されるべきであって、その責を被告人のみに追求することはあまりに酷に過ぎるというべきである。被告人はこれまで保護処分に付されたことなく、犯行時未だ一七歳の若年であり、思慮分別の定まるのはこれからの身である。確かに、右のように幼少時から形成された被告人の反社会性は極めて根深いものがあり、少年院における矯正も容易ならざるものがあることは否定できないが、これからも不遇な境遇の下になお長い人生を送らねばならぬ被告人に対し一度は現在の悪環境から隔離し、少年院において規律ある生活に服せしめ、その教育に期待を抱くことは、単に理想の追求あるいは感傷に過ぎぬものとして無下に棄て去られるべきことではなく、むしろそれが少年法の目的にも合致するものと思料する。要は被告人の確固たる更生への自覚と意欲にある。被告人においては充分この点に留意し、本件犯行について自責することは勿論のこと、いたずらに自己のおかれた環境に卑下することなく、これからの生きかたに深く思いを至し、真摯に人生を歩むことの努力を続けることを念願する。

以上説示したところにより、被告人に対してはこの際刑事処分をもって臨むよりは、むしろ保護処分に付しその健全な育成を図ることが相当と認め、少年法五五条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 本間未吉 裁判官 木村幸男 裁判官 出竒正清)

参考2 少年調査票〈省略〉

参考3 鑑別結果通知書〈省略〉

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